映画はふたつのパートで構成され、前半では気が置けない親友同士であるカイルとコルトンのひと夏の日常が、詩的な美しさに満ちたショットで点描される。すると中盤のある重大な悲劇がターニングポイントとなって、後半はもうひとりの主人公ホイットニーの視点に切り替わり、静寂に包まれた森や草原を舞台にした幻想的なストーリーが繰り広げられる。変奏的な“ボーイ・ミーツ・ガール”物語が展開し、観る者は生と死の狭間というべきスーパーナチュラルな領域へと誘われ、いつしか夢と現実の境目さえも溶け、自然に宿る精霊を呼び覚ますかのような映像に目を見張る。多感な時期を生きる十代の若者たちを主人公にした本作は、友情と孤独、喪失の悲しみといった普遍的なテーマを扱っているが、それらを探求する作風・手法は、ハリウッドの思春期ものの定型とは明らかに異なる。マジック・リアリズムとも形容したくなる、その唯一無二の魅惑的な神秘性がヴェネチアでも評価された。撮影監督は、フォイ監督と共に様々なミュージックビデオや短編にも携わってきたケリー・ジェフリー。
主役のジャクソン・スルイター、マルセル・T・ヒメネス、ヘイリー・ネスの三人は、いずれもオーディションで見出され、これが映画デビュー作となるが、その演技と存在感は特筆もの。なかでもVans と Nine Times Skate Shop がスポンサーにつくスケートボーダーであるスルイターの、若き日のリヴァー・フェニックスを想起させる鮮烈なカリスマ性に、国際映画祭でも多くの観客が目を奪われた。
ヘンリー・マンシーニ作曲、ロジャー・ミラーが歌うラブソング「ディア・ハート」が流れるレトロなカセットテープレコーダー、渓谷に置き捨てられた一冊の日記帳、川に葬られた黒猫などのミステリアスなアイテムやエピソードの数々も想像力を刺激してやまない。
超大国アメリカの隣国であるカナダは、傑出した才能を持つフィルムメーカーを数多く輩出してきた。ハリウッドのメインストリームを牽引するジェームズ・キャメロンやドゥニ・ヴィルヌーヴ、このうえなく独創的なアートハウス系作品を生み出すデヴィッド・クローネンバーグ、アトム・エゴヤン、サラ・ポーリー、グザヴィエ・ドラン。そんなカナダではトロント、バンクーバー、モントリオールといった主要都市圏を中心に、若き映画作家たちの創作活動が盛んに行われているが、同国のインディペンデント映画が日本に紹介される機会は少ない。