母国メキシコを舞台に、過酷な状況や不条理に直面した人間の抱えるトラウマや孤独など複雑な闇をテーマに、動機や目的のわからぬ行動で観る者を不安の極地に陥れながらも、厳しくも冷静な視点で撮りつづけているミシェル・フランコ監督の新境地とも言える本作は、NY・ブルックリンを舞台に、記憶に翻弄されるふたりが出会い、支え合いながら新たな人生を模索するヒューマンドラマだ。それだけ聞くと一見、本当にあのミシェル・フランコ監督作品なのかと思ってしまう人もいるかもしれない。しかし、そこは安心してほしい。記憶障害を抱える男と、過去を秘めた女性、そのふたりの心の傷を単に掘り下げ癒すのではなく、反対にトラウマを次から次へと追加していく。性的暴行、ストーカー行為、アル中、娘を一切信じない母親・・・。勿論、監督の撮影手腕も健在で、無駄なセリフでの説明やフラッシュバックなどでは説明せず、表情だけで観客に伝えていくのだ。そして、不器用な二人が戸惑いながらも寄り添い、新たな人生と希望を見つけていくラストシーンは観る者に大きな余韻を残すー。二人の葛藤と周囲の人々が織り成す人間ドラマでもあり人間の残酷さと寛大さ、温かさと辛さ、相反する面を含み、解釈を委ねる映画に仕上がっている。

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