この度、昨年のカンヌ国際映画祭において国際映画批評家連盟賞を受賞した大ヒット作 『ナミビアの砂漠』の山中瑶子監督と映画評論家の森直人 、映画ジャーナリストの立田敦子MCがトークイベントに登壇した。

『ベイビーガール』のロゴ入りスウェットを着こなして登壇した山中監督。最初に本作の感想を聞かれると、「観ている間は、私も一緒に翻弄されて感情をかき乱されてばかりの、ジェットコースターのような作品で面白かったです。皆さんの感想を聞きたくなる、誰かとすごく話をしたくなって盛り上がれる作品だと思いました」 と話した。続いて森は、本作を観た時に、監督のプロフィールがすごく気になったと明かし、その理由として「誰が撮っているかによって見え方も変わる作品だと思いました」と話した。1975年生まれのハリナ・ライン監督はもともと俳優として活躍し、鬼才ポール・バーホーベン監督 の『ブラックブック』(06)にも出演、バーホーベン監督の門下生といっても過言ではない経歴を持つが、森はその点に触れながら、本作を最初に観た時に『エル ELLE』(16)を想起したことを明かした。「支配 と服従の権力関係を逆転させていきながら、女性の視点から描いており、『ベイビーガール』はそれをさらに女性主体にしようとしたようにも感じました。本能と欲望のドラマを、男性ではなく女性の監督が描く、作品自体の主体のあり方を決定的に変える意図が大きかったのでは」と語った。

映画ジャーナリストの立田は『ナイン・ハーフ』(85)『危険な情事』(88)『幸福の条件』(93)をも想起させる本作のエロティック・スリラーというジャンルについて触れ 、「当時これらの作品が男性目線で描かれていたことに監督が違和感をもち、そのカウンターとして、皮肉や批評も込めて『ベイビーガール』を撮ったように感じられた」と語る。

これに対して、女性監督としての感想を聞かれた山中監督は、「最近は女性監督にしか撮れないディティールがいっぱいあると実感していますが、この映画においては、サミュエル( ハリス・ディキンソン)の在り方ですよね」と話し、「 サミュエルのようにかっこよく、時に女性をコロコロと転がすような余裕ある男性はなかなかいない。女性の理想が詰まったような男性像をここまで描いた映画も今までなかった。少女漫画の登場人物みたいですよね。クッキーで犬を落ち着かせるあの登場シーンは完璧で最高!」と評価した。そのサミュエルについて立田は「バックストーリーが入れられておらず、謎のある存在でもある」と話すと、山中監督と森は、サミュエルはファンタジックな、ロミーの妄想のキャラクターでもあるのでは、という解釈を披露。立田も「今まで男性監督が描いてきた、ファムファタールやロリータのような、男性視点から描かれてきた理想の女性像の逆転の発想、女性監督の理想の男性像でもあるのでは」と分析した。

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