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また本作が高校生の時に観た『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(15)の逆転にも感じたという山中監督。森は、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の原作者も監督も女性であることから、「あの作品も女性主体の仮想的な作品だったのかな 」と振り返り、「ハリナ・ライン監督の念頭にもきっと浮かんでいた作品ではないか 」と推測。その上で、「『ベイビーガール』は高尚なテーマがあるわけではなく、本能と欲望を撮りたかったという、シンプルな作品ではないかと思う」 と作品のテーマに言及すると、監督に実際にインタビューをしたという立田も 「 監督は90年代のエロティック・スリラーをみていた時にダークな欲望に目覚めたが、当時は、女性がそういうことを考えてはいけないんだという、自身が育ってきた時代の道徳観により自ら縛られて、どこか後ろめたかったと思っていたと話していた 」と明かし、さらにそれらの作品で「最終的に女性たちが不幸になる結末を迎えることが気に入らないと思っていた 。 自身が監督になった時には女性の視点からもっと、解放される女性を描いてみたいと話していた 」と明かした。さらに、親日家であるハリナ・ライン監督が泣く泣く諦めたという日本で撮りたかったラストシーンの秘話を明かすと会場は爆笑の渦に。
続いて山中監督が、「女性のCEOとして、権力を持つ立場として、社会的な皮を被った自分と、本当は支配されたいという、矛盾したひとつの個体を描いている部分がすごく面白い」 と本作の魅力を語ると、森も「表面的な人格と本当の自分を描いている部分が面白い」と話し、「『 TAR ター 』(22) でも描かれているが、今、社会的な成功者や権力者はクリーンであることをすごく求められる社会風潮の中で、『ベイビーガール』のロミーも社会的立場としては同じようにクリーンであることを求められながらも、自身の中の動物的なる欲望の部分を解消できないという本音の部分を描いているところが新しいと思う。Me Too 運動以降の新しい流れの中で生まれた作品であるように感じた。 人間の根源に関わる欲望と、社会的な人格がどう関わるのかについては、まだあまり議論されていないようにも感じた」と語った。
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最後に、自身が監督した『ナミビアの砂漠』を「権力闘争の映画」と解説していた山中監督は、『ベイビーガール』もある種、権力闘争についての映画ではと問われると、「本当にそう思いましたね。感情を繕ったり出したり、大変忙しい映画でした 」と自作との共通点も語り、「女性の本音と欲望を描くという部分では、とても理解できる。バカバカしい部分もあり、思わず笑ってしまう映画だと思います。みなさんの感想が楽しみです!」 と締めくくり、時折笑いも起きるなど、 大盛況だったイベントが終了した。