本作は東京国際映画祭コンペティション部門で、東京グランプリをはじめ3冠受賞したのをはじめ、翌月に香港で行われるアジア・フィルム・アワードでは6部門にノミネートされるなど、高い評価を受けている。そんな本作の評価について長塚も「年の割には頑張ってると思ってくださっているのかな」と冗談めかしつつも、「やはり作品全体のグレードですから。黒沢さんや皆さんに助けられました。また黒沢さんとのシーンも、撮影が楽しかったんですよ。それでこんなご褒美をいただいちゃいけないなと申し訳なくなるくらい。僕は出ずっぱりなので、体力的にはヘロヘロだったんですけど、監督をはじめスタッフの皆さんが本当に優秀な方たちだったので、皆さんに助けられました」と現在の思いを吐露した。

一方の黒沢は「長塚さんとご一緒して、いかに日々の暮らしを誠実に暮らすことが大事なのか、ということに気付かせていただきました」と語る。若い頃は女優という仕事を極めようと、習い事をはじめたり、身体を鍛えたりということに心を砕いていたというが、「でも何周もしてみて、結局、自分はどう生きるのか。自分がどう生きてきたのか、ということが大事なんだと思った。女性でいえば、顔のしわとか、たるみも出てくるけど、わたしがこれからも俳優としてやっていくなら、これは変に手を加えたりするよりも、このままの流れで俳優業を突き進みたい。もっといろんな知識を入れて、自分で自分を育てないといけないということをそばにいて感じました。そして長塚さんとセリフをひとつひとつ交わしていくうちに、自分が浄化されていくような、まるで空気清浄機のように、長塚さんに吸われて、混じりけのない人間になっていくような感覚があったんです。それははじめての経験でした」とかみ締めるように語る。

劇中には長塚演じる儀助と、黒沢演じる妻・信子との印象的な入浴シーンがあるが、このデリケートなシーンを撮影するにあたって、まずは黒沢が納得してからではないと、この役をオファーできないと吉田監督は考えていたという。そのことについて黒沢は「わたしが台本を読ませていただいた時に、信子をやりたいと掻き立てたのは儀助との浴室のシーンだったんです。言葉が少ない分、わたしが今まで経験してきた肉体をつかった表現を生かすことができる。ふたりの関係性、たゆたう波のような雰囲気をかもし出し、それを一発で観た方に感じとっていただけるのはこの浴室のシーンしかない。このシーンをやりたいから、できるなら採用していただきたい、と言って面接の場を後にしました」と熱い思いを語ると客席からも拍手が。

そんな黒沢との共演を振り返った長塚が「若いパワーみたいなものを感じましたね。この方は本当に底力のある役者さんなんだなと思い、タジタジになりました」と語ると、吉田監督も「僕は黒沢さんには日本の俳優には少ないスケール感を感じさせる人。信子という役もそう簡単にはできない役だろうなと思っていた。でも黒沢さんの浴室のシーンにかける、その思いの強さにも圧倒されてしまって。正直、自分が書いた脚本を『大丈夫だったかな』と読み返してしまったくらい。それくらい監督である自分を駆り立ててくれた黒沢さんの存在は大事だったなとあらためて思います」と語る。

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