さらにクライマックス付近で儀助が、元教え子の靖子(瀧内公美)と信子らと一緒に鍋を囲むシーンについても。「わたしもこれまでエキセントリックな役を多くやってきたので。スタートと言われると、スイッチが入って感情が突っ走ってしまうんです。でも信子はそういう役ではない。そこを大八監督は見抜いてくださっていて。『感情を上げずに手前で落として』といった感じで演技指摘をしてくださって。信子という役を通してワークショップをしてもらっているような感覚になって。やはりわたしも子育てがひと段落ついて。ここから俳優として再スタートするためには、ここでみっちり教わらないと先がないという思いで何回もやらせていただきました」と振り返った黒沢。

長塚も「僕もあそこのシーンには一回性というものを感じた。皆さんのエネルギーの発散なども、こういうことは二度とないだろうなという思いで。こうした荒唐無稽なワイルドなシーンは楽しすぎました」と笑う。そしてそんなふたりの言葉を聞いていた吉田監督は「僕は本当に楽しいなという思いで撮影をしていたんですけど。そこに一回性という、そんな目線の高さでやってくれていたという長塚さんの言葉が衝撃でした。まだそのことを受け止め切れていないので、後でもう少し(その言葉について)考えてみます」と驚きを隠せない様子だったが、「ただどんなシーンでもそうですが、この俳優と、このスタッフと一緒にこのシーンを撮るというのは二度とないわけなので。あの(鍋の)シーンも、その目線の高さで言っていただけているということが、あのシーンの力につながっているんだなとかみ締めました」としみじみ語った。

そんなイベントもいよいよ終盤に。最後に黒沢が「ちょうど子育てが終わったタイミングで信子を託されて。徐々にわたしの俳優業の方向性が変わってきました。作品、役との出会いというのは自分がどんなに頑張ってもどうにかなるものではないですが、ふと自分の力が抜けた時に切り拓かれていくものなんだなということをかみ締めています」と語ると、長塚も「僕自身、とても素晴らしい作品、素晴らしい仲間に会うことができました。一生の思い出です。ありがとうございました」と感慨深い様子で語り会場からも大きな拍手が。さらに吉田監督も「僕はこの映画が完成したところですごく満足したので、完成した後のことを考えていなかった。でも一カ月経ってこれだけのお客さまに集まってもらって。ある記事で『敵』を1年上映してもいいんじゃないかと書いてくださる方がいたので、今、そういう欲を持ってもいいのかなと思い始めました。1年とは言いませんが、年末にもう一回、どこかの劇場でこうやってごあいさつできる機会があったらいいなと想像しました」と語ると、会場からは期待を込めた大きな拍手がわき起こった。

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