この幻想的な舞台で、岸辺露伴の新たな物語が紡がれることとなる。通常は映画撮影が許可されない歴史的建造物や、イタリアのルネサンス期を代表する画家ティントレットの絵画など、貴重な文化遺産が本編の随所に登場し、これは「岸辺露伴」シリーズの品格と、制作陣の情熱があってこそ実現した特別な撮影といえるだろう。
本作は単なる“観光案内”にとどまらず、ヴェネツィアの持つ複雑な歴史と文化の重層性が、岸辺露伴の物語に新たな深みを与える。かつての海洋共和国としての栄華、数々の戦争、そして繰り返し襲ったペストの記憶。これらの”影”が、華やかな外観の裏に潜む独特の雰囲気を醸成し物語の背景として絶妙に機能しており、主人公の岸辺露伴を演じた高橋一生は「ヴェネツィアの空気の中でしか撮れないような、暗い影や霧を画面越しに感じつつ、ソワソワしたりドキドキしたりしてもらえれば、本望です」と語る。この言葉が示すように、本作はヴェネツィアという街の持つ独特の空気感を巧みに取り込み、観る者を物語の世界へと引き込む。美しく華やかな外観の裏に隠された歴史の重み、迷宮のような水路、そして立ち込める霧。これらが織りなす神秘的なヴェネツィアの魅力が、岸辺露伴の超常的な能力と絡み合い、唯一無二の映像体験を生み出す。

