そうして参加した根岸組の現場だが、「押しかけといてなんですが、難しいなと思った」と語る柄本。「ワンシーンだけの出演というのは、ずっと出るよりも緊張するものがあります。やはりそれまで撮影してきた空気の中に単身入っていくわけですから。もちろん根岸監督はいらっしゃるわけですが、それでも緊張する。それと向き合っていく感じで、1日が非常に長かったのを覚えてます」と語ると、かつて三島由紀夫の戯曲を根岸監督の演出によって映像化した2013年の『近代能楽集「葵上」』に出演したことに触れて、「その時の現場はそんなに長期間というわけではなかったんですが、とても面白かったんで。今回も出させていただきたいなと思ったんです」と述懐。その根岸組のおもしろさについて、「現場がおおらかというか、待っている時間が心地いい。『近代能楽集』の時もそうでしたし、今回のワンシーンもそうでしたが、監督は声高にこうしてくれとかはおっしゃらない。でも自ら考えてやることは許容してくれて、それを見てくれる。それは恐怖もあるんですが、同時に安心感もあって。だから自分なりに思ったこと、考えたことを提示してくれる面白さがある。考えることが楽しくなっていくような現場でしたね」と振り返った。

本作の企画が立ち上がったのが6~7年前。そこから紆余曲折あったと語る根岸監督。「わりと早い時期に広瀬(すず)さんと岡田(将生)さんにお声がけして。ふたりとも興味を持ってくれて参加したいと言ってくれて。そこから3年くらいお待たせしてしまった。そしてこれ、撮影が終わってからも2年くらいたっているので少し忘れてしまっているところもありますが」と根岸監督が笑うと、柄本も「実は監督とはご近所なんです。だから坂をあがった時に監督にお会いすることがあって。『そろそろできますか?』と聞いた時も、『映画はできたんだけど、公開は2年後なんだよね』とおっしゃっていた。でも今日、あらためて映画を観てみたんですが、大正時代を舞台とした田中陽造さんの本だけど、全然違う人が撮ったら、非常に浮わついた、地に足のついてないものになりそうだけど、これは根岸さんの作品だなと思いました。監督のみずみずしさを感じました」と指摘する。

そしてこの日、あらためて映画を鑑賞したことで「難しい役だなと思いました」と、かみ締めるように語った柄本。「終わった後には根岸組が参加できた喜びと、どんな風になっているのかなと思うんですが、でも観ると落ち込むんですよね。ただこうやって監督が16年ぶりに撮られる作品の画面の中に入ることができたのはうれしいことだし、しあわせなことだなと思っています」としみじみ語った。