大正時代の景色が見事に再現されている本作。根岸作品のファンだという柄本は、映画冒頭で中也と泰子が出会うシーンで、屋根が印象的に映し出されるシーンがあったことに触れて「監督の作品は何本も観させていただいているんですが、監督は屋根がお好きなんですか?」と質問。それには「今回、そういう指摘をされることが多いんだけど、シナリオにあったことを撮っただけで。自分の趣味ということはないんです」と笑った根岸監督。「今回撮った黒い瓦屋根は、普通はグレーなんだけど、雨に濡れると黒く光る。あの感じを撮りたいと思った。僕は福田平八郎という日本画家が好きなんだけど、その人の絵で『雨』という作品があって。大写しになっている瓦屋根に、ポツポツと雨だれが落ちてくる瞬間を描いているんだけど、そういう感じは前から一回撮ってみたいと思っていた」と語ると、「昔から大映や東映の映画では、俯瞰目で路地を撮るというのはある種の伝統だった。三隅研次さんの映画なんかもそうですけど、そうした日本映画にあこがれたこともあるし、松本俊夫さんのドキュメンタリー映画で『西陣』という作品があって。ああいう街がまだ残っている時代の京都を俯瞰で撮っているものもあった。自分の頭にはそういうのがチラチラとあったので、あれを真似したんです」。さらに「僕だけでなく、美術チームや助監督もものすごく勉強していますし、衣装もヘアスタイルも、画面に映るものすべてを勉強した。あの時代を表すのにどういう色彩の感覚がいいのか、ということも撮影、照明も勉強してくれた。それで大正時代の映像ができた」と語る根岸監督は、「路地はロケーションで、部屋はセットという具合に、別々のところで撮影するということがありますが、今回は路地からつながっているところに部屋があって。一軒が全部できているんですよね。今回は、撮影はしなかったけど、玄関もしっかりとつくられていたので。だから今回は外側から撮ったけど、中から撮ることもできるようにつくられていたんですよ」と説明。柄本が「そこはチラッと見えますよね。役者さんにとっては、そこがつくられているという、その辺の厚みが楽しく思うというのはありますよね」と語ると、根岸監督も「生きているような気持ちになれるんですよね。部屋の窓がグリーンバックになっているようなところではなくて、そこで自分が生活している気持ちになれるセットというのはすごく大きいと思う。ただそれは贅沢なことではありますけどね」としみじみ語った。

この日は、客席からの質問も受けつけることとなり、「三人の中で誰に共感する?」という質問も。それには「この三人に共感するのは難しいかも」と笑ってみせた柄本だったが、「この三人はどこも折れないんですよね。だからそれぞれに共感ポイントがあるのかなと。そのせいで大変なことになるわけですが。そうやって三人の関係性を一つとしてこの映画を観ているのかなと思います」と分析してみせるひと幕も。

そしてトークイベントも終盤に向かい、最後のコメントを求められた柄本は「監督を前にして言うのは恥ずかしいですが、僕にとって『ゆきてかへらぬ』は今年の一番じゃないかなと思っています。まわりの方に薦めていただきたいですし、皆さんは何度来ていただいても構いませんので、よろしくお願いします」とあいさつ。続く根岸監督も「先ほど共感という言葉がでましたが、とにかく誰かに共感するのが難しい映画なんだと思う。映画って共感すると観やすいものですが、そういう意味でこの映画は共感しにくい映画だと思います。今、佑くんが言ったとおり、三人がひとかたまりで。ちょうど三本の足が支えあってできてるようなアウトドア用の(折り畳み)椅子があるじゃないですか。たぶんああいう感じで皆さんに受け止めてもらえたらいいなと思うので。もし帰ってから反すうしていただけるのならば、共感できなかったなということではなく、アウトドア用の椅子みたいなものを思い出していただけたらなと思っております」とユーモラスな表現で会場に呼びかけた。

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