⽣活が続く限り、否が応でも思い悩み、気付いたら知らない道にいる時がある。
寄る辺無さに不安になって、もう戻れないのかと徒労感が襲う。 そんな時、⼀体どこでどうなって、何がこうなったのか反省するより先にすべきなのは、⾃分⾃⾝が美しいと信じた確かな時間を静かに思い出して、想像しているよりもずっとゆっくり歩を進めることだ。

― 巽啓伍(⾳楽家/ never young beach)

ただ、そこにある映画だと思った。時間の流れが⼼地よく、素敵。
そして、私の記憶じゃないのに、どこか懐かしさを覚えた。回想は、滑らかな⽑並みに⼿を差し込むような感触だ。
アパートの硝⼦に反射する街の⾵景や、ビルの窓灯り、⾞のライト。こんなにも限りない⼈々の時間が粒々に光っているなんて、少しこわくなるけれど、⼆⼈と正⾯から向き合ったとき、私は今、⽬の前にいる⼈とのささやかな勘違いを⽢んじようと思えた。

― 中⾥有希(映画監督)

弱くて、妻と他の⼥性との間で揺れる志萱監督の男性主⼈公は、等⾝⼤で現代的な存在だ。
『猫を放つ』は中盤から、森での散歩から過去の時制へのジャンプ、終盤の夫婦が並んで歩くロングテイクなど、奇跡のようなシーンが続く。あくまで実体験から出発し、辿り着いた境地、迷い、揺れる時間。その贅沢をぜひスクリーンで。

― 夏⽬深雪(映画批評家)

奇跡的な映画を⾒た。1組の夫婦の暮らしに唐突に過去が侵⼊し、激しく揺さぶられる。でもそれは回想シーンとして描かれるのではなく、登場⼈物が実際に過去の若い姿に戻るのだ。映画を観た後、1994年⽣まれの志萱⼤輔監督が撮影に7年の歳⽉をかけた初の⻑編と知って合点がいった。20代の若者たちが102分の映画の中で7年歳をとって30代になる。現在と過去が衝突する際にポルターガイスト現象が起きる。このノスタルジックなホラー⾵味が効いている。欲望を含んで捩じれた記憶のメタファーとして⽬に⾒えない猫が放たれるのだ。傑作。

― 盛⽥隆⼆(⼩説家)

時間とともに変わっていく愛の感情と、変化した感情の源を辿る記憶とが、絶妙に絡みあっていく感覚がたまらない。そして感情と記憶が混じると磁場が乱れて幽霊が現れ、パラレルワールドへの道先案内⼈となる。なんと⽢美で刺激的な作品であることか。

― ⽮⽥部吉彦(前東京国際映画祭ディレクター)

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