昨年の東京国際映画祭では、コンペティション部門 最高賞「東京グランプリ/東京都知事賞」をはじめ、19年ぶり3冠受賞の快挙を達成。さらに、先月香港にて開催された“アジア版アカデミー賞”と名高いアジア・フィルム・アワードでは、「最優秀監督賞」を受賞。
この度、本作の吉田大八監督が、母校である早稲田大学の大人気映画講義「マスターズ・オブ・シネマ 2025」の初回ゲストとして登壇した。

映画制作への強い思いを受験のエネルギーへ、CM制作から映画監督までの道のり
講義冒頭、話題は母校・早稲田大学での思い出へ。担当教員の谷教授に映画との付き合い始めを聞かれると、吉田監督は「(鹿児島県から)上京して1年間予備校に通っていたんですけど、その時に急に映画を観るようになって。テレビっ子だったんですけど、下宿にテレビがなかったもので、たまたま近くにあった名画座に通うようになったら、映画を観る習慣がいきなりついたというか。そこで、映画を観始めたらすぐに自分でも“映画を作りたい!”と思うようになりました。それで、早稲田大学に入って自主映画を作って、そのまま劇場映画を作れたらいいなと。」と映画との出会いが受験時のモチベーションになったと当時を振り返る。その後、早稲田大学に合格。第一文学部で「映画史」などを学びながら、映画制作グループ「ひぐらし」に入り、8mmフィルムを用いて映画を撮っていた吉田監督は、卒業後「CM制作」への道を進み始めることになる。
CM制作のやりがいについて聞かれると、「(CM制作を始めて)40年近くになるんですけど、楽しいですね。」と答える吉田監督。「(CM制作は)ブランドの認知を高めるとかテーマがあるわけじゃないですか。最初は、そのテーマに則した15秒とか30秒の短編を作ればいいんでしょっていう、半分合ってるけど半分勘違いみたいな気持ちで作り始めたんですけど、その勘違い状態のまま作り続けてこられたから幸運だったと思います。」とCM制作への思いを語る。また、そんなCM制作を経たことによって吉田監督自身のスタンスにも変化が訪れたと言う。「学生の時はパッと思い付いた話をパッと撮るんですけど、CMになるとまず商品であったり、その商品に伴った企画がある。それをどう受け取って、どう料理するかみたいなことをやっていた時間が長かったので、今でも原作のものをやることが多いのかもしれないです。CM制作時の“与えられたお題に対して自分らしい回答をする”というスタンスは続いているような気がします。制限があった方が力が出るタイプになってしまったのかもしれないですね。まず縛ってみたいな(笑)」と笑みを溢した。その一方で、「原作があって売れていたとしても、“映画化する意味”はものすごく考えます。関わる人数や費用が大きいので、誰が脚本を書くのか、プロデュースは誰が行うのかなどはすごく意識していますね。」と語った。
