CM制作で培った力を映画制作へ、『美しい星』『羊の木』における脚色術
本講義では、生徒への事前課題として『美しい星』(17)と『羊の木』(18)の鑑賞が提示されていた。話題はそんな2作品を取り上げ、吉田監督がCM制作時代から培ってきた脚色術へと移っていく。
2017年公開の『美しい星』は、三島由紀夫が1962年に発表した同名小説が原作である。「三島由紀夫の愛読者からは、『美しい星』はB級とはっきり言われました(笑)」と吉田監督自身も語る原作を映画化したきっかけについて聞かれると「面白かったんですよね。」と一言。「(原作を初めて読んだ当時)作家の手のひらの上で気持ちよく踊らされたな!という感覚があったんですよね。だから、自分も映画を作るんだったら、観客にそういう気持ちになってほしいと思ったのかもしれないですね。」と原作に惹かれたポイントを語った。また本作では、核戦争から気候変動の危機へと、主人公一家が対処する問題も時代に合わせて変更されている。吉田監督曰く、「原作はキューバ危機真っ只中で、時代のリアルな空気を反映した小説だったんですけど…当時の時代設定そのままにして映画化すると、今でも変わっていないから辛いなという感じがしました。現代に置き換えたら何になるんだろう…と考えた時、最初2015年の福島第一原子力発電所での事故のことが浮かんで書いてみたんですけど、あまりにも生々しすぎました。原作が読まれていた当時、アメリカとソ連が軍艦競争していて、当事者なのか傍観者なのかわからない微妙な日本の距離感と比べると(2015年の事故が)近すぎたんです。そこで考えたのが、気候変動でした。人類に対する脅威の一つとして案が挙がってきて、そこから脚色を始めました。」と気候変動というテーマに落ち着くまでの試行錯誤の経緯を語った。

続いて話題は、2018年公開の『羊の木』へと移る。
前作の『美しい星』とは異なり、『羊の木』は原作・山上たつひこ、作画・いがらしみきおによるマンガ作品である。吉田監督は、「マンガは絵がある分、より直接的にビジュアルとして表現されているので、その引力から一旦自由になった上で、映画として何がベストかを考えることが必要でした。」と本作を脚色した当時の考え方を振り返る。さらに、主人公・月末の年齢を40代の市長から若い普通の職員へと変更したことに対しては、「“元受刑者を移住させて定着させる”というプロジェクトを観客目線で体験させて、その状況に対応しながら主人公が変わっていく姿にフォーカスした方が、2時間という映画の中で物語を構成しやすいなという動機がありました。」と映画化するにあたって明確な狙いがあった旨を語った。
