筒井康隆原作、満を辞して映画化へ、最新作『敵』における脚色術
『美しい星』、『羊の木』を経て、講義後半は最新作『敵』について語られた。
筒井康隆の同名小説を原作に持つ本作は、吉田監督が原作を読み返したことがきっかけで動き出したと言う。「(原作は)2000年代頭には一度読んでいて、それからずっと読んでいなかったんですよ。でもコロナの頃読み返したら、違う読後感がありました。最初に読んだ時はまだ30代だったので、「敵」ってなんだろうと考えることさえせず、不条理劇として楽しんでいたんです。でも読み返したら、前半のご飯を食べたり、友達と会ったりしている淡々とした場面が読んでいて気持ち良かったんですよね。だからこそ、徐々に不確かになっていく後半が悲しくて。当時の自分の年齢だと十分に噛み砕けていなかったんだなということを思い知りました。」と原作への思いを語った。

そんな本作で谷教授が注目したのは、やはり映画化するにあたっての脚色部分である。「朝食」「友人」「物置」など項目ごとに語られていく原作を映画では「夏」「秋」「冬」「春」と季節の移り変わりを感じられる形へと変えている。吉田監督は「主人公の生活に付き合って時間の経過をガイドする役割がいないと、原作と別の価値を見出すことができなかったんです。だから、小説の中では「麺類」と一括りになっている章でも、素麺は夏に食べるよな…とか、鶏だったら鍋で冬だよな…とか、季節に沿って構成したらうまくまとまったので良かったなと思いました。」と脚色工程における工夫を語った。また、本作をモノクロで撮った経緯について聞かれると、「脚本を書いていた時、本作は日本家屋が舞台だったこともあって、今までの日本映画でどのように(日本家屋が)撮られてきたのか参考のために観ていたんですよ。そうするとモノクロが多いじゃないですか、そこからモノクロいいな…と思い始めまして(笑)」と最初は直感であった旨を明らかにした。「モノクロにして良かったことは多かったですね。観ている人の感度が上がるなと。普段は色のあるものを色のない状態で観ているだけで、脳が勝手に色を補完しようとするじゃないですか。その時点で脳が活発に動いているので、より物語に没入できると思いました。だから、食べ物は普段より美味しそうに見えるし、女性はより綺麗に見えたり、主人公の感情を強く追体験できるようになったんじゃないかなと思います。」と語り、今後もモノクロで撮ってみたいと意欲的であった。
