官能的で催眠をかけるような視覚様式は、タイ生まれの撮影監督サヨムプー・ムックディプロームの、うっとりさせるようなカメラワークでさらに強調される。ムックディプロームは、以前にもグァダニーノとタッグを組んでおり、『君の名前で僕を呼んで』『サスペリア』『チャレンジャーズ』 でも撮影監督を担当。アピチャッポン・ウィーラセタクン監督の実験的で超越的な作品『MEMORIA メモリア』(21)や『ブンミおじさんの森』(10)などや、ポルトガルの映画監督ミゲル・ゴメスの様式化された歴史映画作品の撮影を担当することで、キャリアをスタートさせた。最近では、ロン・ハワード監督の『13人の命』や、M・ナイト・シャラマン監督の『トラップ』の撮影監督を務め、今日最も引っ張りだこの撮影技師だ。

1950年代の衣装を再現するために、親しい友人で、頻繁に一緒に仕事をするジョナサン・アンダーソンと再びコラボを組むことにした。アンダーソンは、アイルランド生まれのファッションデザイナーで、自身のブランドJ.W.Andersonや複数の高級ブランドのクリエイティブディレクターを務めている。アンダーソンは、『チャレンジャーズ』をきっかけに映画の衣装デザインの世界に入った。

「1950年代の男性は、服を長い間キープするという習慣がなかった。外国人としてメキシコで暮らす、ウィリアム・リーのような男性は、特にそうだった。『クィア/QUEER』は、1950年代の男性服に潜むフェティシズムの概念に焦点を当てている。そこには微妙なニュアンスがあるんだ」とアンダーソンは語る。映画の序盤では、うだるような暑さの、メキシコシティの夏の街並みを舞台に展開する。リーは、淡い色の麻のスーツ、パナマ帽、そして現代風のサングラスを身につけて街をさまよう。

アンダーソンは、「僕は彼を、『乱れのあるしゃれ男』と解釈した。からだが衣服に影響を与え、服が、第2の皮膚として彼のからだの一部になったように思えた。リーの服のスタイルは、究極的には、彼の身のこなし方と関係がある。ユージーンのスタイルは、少し堅苦しく、同時にヒッピー的で若い。それが性的な魅力を醸し出しているんだ」と明かし、リーの、しわくちゃのヘミングウェイ風スタイルとは対照的に、ユージンには、より垢抜けた大学生風の格好をさせ、2人の男の年齢、人生における立場、そして心理がいかに異なっているかをはっきりと表現した。

終盤では、リーとユージーンが、幻のヤヘを求めてジャングルへと入っていく。その時の2人の服は、密林の湿気で汚れている。「物語が進んでいくにつれて、服はどんどん汚く、くたびれていかなければならない。彼らは、ジャングルの中で服を洗濯できないからね。これを強調するためには、それぞれのキャラクターには、衣装を1着しか準備しなかった。そうすることで、ジャングルを冒険する中で、服がどうやって劣化していくかを想像することができた」とアンダーソンはこだわりを明かした。

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