さらに話題は、本作最大の特徴である、時系列をシャッフルした斬新な構成に。劇中では出会いや人生における喜び、悲しみ、最悪な日…これら全ての瞬間がバラバラに提示されていく。山崎は「そもそも人生は全部混乱しているようなもの。自分の人生が物語になるとして、今自分がどの地点にいるのかなんて分からない。ガーフィールド演じるトビアスは、計画的な性格で将来のことをしっかり考えているけれど、ことごとくうまくいかない。でも、それがすごくリアルで良かった」と語り、構成が生むリアリティを解説。さらに、「時間がシャッフルされることで、観客がふたりの未来を先に知ってしまう瞬間が生まれて、その構造もとても面白かった」と分析した。
枝監督も「ぐちゃぐちゃな時系列が、より一層人生の機微を際立たせていた」と同調し、「本作は、いろいろな展開がありながらも、ポジティブなものに向かっていく作品。人生どうなるか分からないけど、結局は今を生きていくしかないんだということが、この斬新な時間軸の描かれ方によってより深く理解できた」と話し、観客がまるで自分の記憶をたどるように物語を追体験できる構造だと語った。
また、本作はいわゆる“余命もの/難病もの”作品とは一線を画す物語。枝監督は「病気そのものではなく、生きていることにフォーカスしている」と、そのポジティブなメッセージを強調。アルムートの生き方から、「どんなに辛い状況でも前を向いて生きる」ことの尊さを感じたと語った。山崎は、「完璧主義」や「SNS疲れ」が蔓延する今だからこそ、この映画が持つ“揺らぎ”が重要だと指摘。「ネット越しに他人の成功が見えてしまい、自分がそれを逃しているのではないかと思い込む」現代において、この映画は「何が成功で失敗かもわからない」人生の真理を突きつける。しかし、その真実を突きつけられたからこそ、観客は「失敗だらけに見えても、実はそうではない」と、自分自身の人生を肯定的に捉え直すことができる。アルムートが病に直面しながらも、ひたむきに生きる姿、そして彼女の意志が残された夫と娘へと受け継がれていくラストは、人生の「繋がっていく」力を強く示唆していると、本作の意義を熱く語った。
イベントの終わりには、枝監督が「今日の観客には20代の方が多いと聞きました。世代が違う皆さんが、どんな風にこの作品を受け取ったのか気になります」と投げかけると、山崎は「映画って、その1~2時間に自分の人生を預けるようなもの。失敗したら嫌だなと思う人もいるかもしれないけど、どんな映画にも必ず何か持ち帰れるものがある。今日のこの時間が、皆さんにとって良いものになっていたら嬉しいです」と、映画鑑賞の価値を改めて強調し、温かい言葉でイベントを締めくくった。