小豆島をロケ地に選んだ理由を尋ねられると、和田も「ほんとうに風景が綺麗なんです。山も川も、海もあって、高低差とか地形の面白さがあり、撮影場所によっていろんな表情が見えて来る点が良かった」と魅力を語る。また、「現実的な点で言うと、9月〜10月で天気が安定していて、予算内で収まる場所を探していた。映画を撮っている最中は、奇跡的に台風も一度も来なかったですね」と明かし、島との縁を感じたとも話した。
横浜監督は、「原作の漫画『海辺へ行く道』は大大大好きな作品」としつつも、「不思議な出来事が多くて映画化は難しいと思っていた」と率直な想いを吐露。そんな折、プロデューサーからの声がけで企画が動き始めたという。

主演の原田は800人もの中からオーディションで選ばれたことは既報の通り。その抜擢理由について、和田は「ただセリフを言うだけじゃなく、ちゃんと相手の話を聞いて、会話としてリアクションを返せる。しかも、カメラの前にただ立つということが、とても自然にできる。大人の役者でも難しいのに、本当に驚きました」と原田の印象を明かした。横浜監督も、「棘がないというか、嫌な気配がまったくない。それが南奏介の持つ“ぼーっとしてるけど嫌味のない雰囲気”にすごく合っていた。しかも原田くんはアドリブもすごく上手。現場で台本にないセリフを自分で考えて、自然に発してくるんです。そのチャレンジ精神が大好きでした」と称賛。
一方の原田は、「やったー!って感じでした」と、オーディション合格時の心境を振り返る。自身が演じた奏介というキャラクターについて、「普段はちょっと幼くてお茶目。でも芸術のことになると急にプロみたいになる。僕とか俺とか一人称も変わるんです。だからその“二面性”を意識して演じました」と語り、役への深い理解を見せた。
作品に登場する“黒猫”も、実は撮影現場で大きな存在感を放っていた。横浜監督は、「一番手がかかったのはこの猫でした」と笑う。「ファーストカットからラストまで、猫は自由に動いてるように見えるけど、実は綿密に仕掛けられていた」と明かし、中でも印象的だったのは、猫が奏介を見るというシーン。しかし猫は全く向いてくれず、原田が石を投げて音を立てたりして猫の注意を引こうと奮闘したという。「実は、作中で奏介と黒猫は“出会っていない”んです。なのにお互いに影響し合っているような、そんな不思議な関係が描けたと思っています」と振り返った。
本作は、瀬戸内国際芸術祭2025に正式参加しているが、映画とアートの融合を目指すという挑戦的な取り組みについてプロデューサーの和田は「映画を観る人とアートを観る人って、意外と層が違う。その両方をつなげることができるのがこの作品だと信じています」と思いを託す。撮影地に選ばれた小豆島は、島そのものがアートと風景に包まれている。自然の中に“溶け込むように”存在するアート作品群を、映画の中でもそのまま活かしているという。「北川フラムさん(瀬戸内国際芸術祭総合ディレクター)が、この企画を気に入ってくださり、アート作品を舞台として使用する許可をいただけたのも、本当にありがたいことでした」と改めて感謝を述べた。
横浜監督は「この映画は“芸術って何だろう?”という問いが裏テーマになっているんです。観た人が、瀬戸芸で作品を観た後に、“自分にとって芸術ってなんだろう?”と少しでも考えてくれたら嬉しい」と自身の願いを語る。
舞台挨拶の最後、今後どんな俳優になりたいかという質問に対して、原田は「今はアクションがやりたいです。ジークンドーも強くてお芝居もすごい、岡田准一さんに憧れています」と真剣な眼差しで話すと、会場からは大きな声援が飛び交い、盛況の内にトークイベントは幕を閉じた。
