アフレコ時のこだわりについても、貴重な裏話が語られた。本作のアフレコが始まったのは2016年5⽉。最初にマイクの前に⽴ったのは、周作役の細⾕佳正と、円太郎役の⽜⼭茂だった。⼀⽅、すず役ののんが収録に臨んだのは約3ヶ⽉後の8⽉。劇中で夫婦を演じたふたりのアフレコには、実に3ヶ⽉の時間差があったことになる。

細⾕は「アフレコをした頃は、ちょっと⽣意気な⻘年だったので・・・(笑)」と笑いつつ、「“⼈が⾃然とそこに存在しているような芝居がしたいです”という話をさせていただきました」と振り返る。「当時はまだすずさん役が決まっていなかったのですが、きっと⼥優さんがされるんじゃないかと思っていて。⼥優さんの芝居はナチュラルで、声優の芝居は“ちょっと盛ってる”って思われたら嫌だなっていう、若いなりのプライドがあって。まだ会えないすずさんを想像しながら、“普通な会話のやり取りになれたら”という意識でやらせていただいてました」と真摯な表情で語った。⽚渕監督は「その細⾕くんの“⾃然にそこにいる⼈”という芝居の基礎があったからこそ、他のキャストがその空気感を受け継げた」と応じ、「細⾕くんの声が全体のリアリティを⽀える⼤きな軸になった」と語った。また、⽚渕監督は「ガンマイクを⽤いて、演者の“息遣い”を拾いながら収録した」と明かす。通常の声優収録とは異なり、マイクが⾒えない状況下で“まるでその場に存在するように”演じた細⾕も、「信頼されていると感じた」「細かなニュアンスもすべて汲み取ってくれる環境だった」と語る。