
そしてベートーヴェンを語るのに欠かせない人物の一人が甥・カール(前田旺志郎)の存在。ベートーヴェンは弟の死後、親権を巡る泥沼裁判の末にカールを引き取り、惜しみなく教育を施すものの、ベートーヴェンの有り余る愛情と情熱がカールにとっては苦痛となり、やがて悲劇的な事件が起きてしまう。自分を熱烈に慕ってくるシンドラーを鬱陶しく思うベートーヴェンもまた、自身の愛で甥を追い詰めていたのだ。

そんなベートーヴェンだが、音楽の天才性と社交的な性格からか、シンドラー以外にも慕う弟子や友人は多く、病に臥した際にはベートーヴェンのためにもう一人の弟・ヨハン(小澤征悦)や旧友のブロイニング(生瀬勝久)が手取り足取り遺言状作成の手伝いをしてくれる。そして56歳で生涯を閉じると、葬儀には2万人近くの関係者や市民が集まり、盛大に見送られた。“完璧な天才”ではなかったかもしれないが、音楽以外にも人々を惹きつける魅力のあった人物だったのかもしれない。