映画制作のプロセスについて、横浜は「一人で完結するアートとは違い、映画は最初から多くの人が関わる」と話し、かつては他者の意見に振り回されることを恐れ、自分の思い通りにいかないことに苦しんだこともあったと振り返った。しかし近年は、「さまざまな意見や偶発的な変化を受け入れることで、むしろ作品が豊かになっていくと実感している」という。本作でも、シナリオから変更し、ラストは登場人物が絵を描く日常的なシーンへと差し替えたと明かした。横浜の話を受けて「作品は半分以上が環境や人との関わりで変わっていく。だからこそ強い作家性や確かな技術がないと、ただ流されてしまい、作品が壊れてしまう。それはアートも同じです」と北川もコメントした。
また、自身の映画との出会いについて質問されると、横浜は「幼少期は映画館へあまり言った記憶はなく、最初に映画館で観たのはアニメ映画『はだしのゲン』だったと思います。父親がレンタルビデオ店で借りてきた映画を一緒に観る機会が多く、名画が好きだったみたいでヒッチコック作品等に自然に触れていたことが、映画への関心に繋がったと思います」とコメント。
ロケ地に小豆島を選んだ理由は「青森県出身の自分にとって、明るい光に溢れる瀬戸内はまるで夢の国のような憧れの場所」だったといい、実際にロケハンで訪れた際には、自然の強さに圧倒され、その魅力を作品に取り入れたいと感じたと振り返る。
先日行われた小豆島凱旋上映会について尋ねられると、「小豆島には映画館がなく、住民の皆さんは高松まで足を運ばなければ映画を観ることができません。上映会には800人ほどの島民の方にお越しいただくという盛況ぶりでした」と笑顔を見せた。また、観客が自由におしゃべりしながら鑑賞する姿が印象的だったといい、「映画に集中して観てもらいたいというのはもちろんありますが、その人自身が好きなように楽しんでもらえるのも嬉しいなと感じました」と思いを述べた。
劇中で描かれている“東京への憧れ”について問われると、自身の経験を重ね、「若い頃はとにかく東京に行きたい一心でした」と吐露。離れてみて初めて地元の良さに気付くことができたといい、地方と都会の距離感を作品に込めた意図を明かした。また、北川氏が、「横浜監督のこれまでの映画の多くで、青森の方言が使用されているが、それが聞き取れないぐらいのリアルで、これはすごい映画だと思った。ぜひ皆さんにも観ていただきたいです。」と話した。
最後に、横浜は「今日は皆さんと直接お会いできて、率直な感想をいただけたことが何よりの喜びです」と改めて感謝を伝え、会場は大きな拍手で包まれた。