
撮影のために都内近郊の倉庫の中に立てられたセットとはいえ、床にはゴミが散乱し、漏れた水がしたたり、“生きた虫”も実際に投入するという徹底ぶり。当初は実際の公衆トイレを借りてロケする案もあったそうですが、山岸監督は「ありがたいことに今の公衆トイレはどこも綺麗で、理想とする汚いトイレがどこにもなかったです(笑)。物語は飛鳥が地獄のようなどん底にいるところからスタートするわけで、飛鳥の心象風景を表す上では入るのも嫌になるくらい汚い公衆トイレが必須でした」とセット作り撮影を行ったことを話した。そしてセットにしたことにより、実際の建物では出来ない深みのある表現も可能となった。

そんなこだわりの撮影現場に足を踏み入れたのんは、あまりの“汚すぎる公衆トイレ”に思わずビックリ。洗面台に手を置くことを少し躊躇しているのんに、山岸監督が「この汚れは全部絵具ですから大丈夫ですよ」と声をかけて安心させる一幕もあった。またこのシーンでは、通常の鏡を使用するとカメラや照明、音声機材などが映り込んでしまうため、本物の鏡を使わない特殊な演出で撮影が行われた。鏡に見立てたセットを使い、鏡側にはのん本人、手前には代役が立ち、まるで鏡に映っているかのように見せる演技が求められた。 動きや表情を完全にシンクロさせる必要があり、のんが代役に積極的に声をかけながら細かく演技のタイミングを確認する姿も。リアリティを追求しながら、作品づくりが丁寧に進められていった。さらに鼻から血が一筋垂れる印象的なシーンでは、数人のスタッフがのんの鼻に血のりを仕込むため、カメラに映らない死角から素早く出たり入ったりと息を合わせて動き回る。その様子を見たのんは「鼻血屋さんが3人もいるから…」と思わず笑い出す場面もあり、現場は終始和やかな雰囲気に包まれた。