一方、ダブル主演として横田さんの母・まなみを演じた鈴木は、「正直なところ、生前の横田さんのことは詳しく存じ上げませんでした。でも阪神がリーグ優勝した時に、選手が彼の背番号『24』のユニフォームを掲げていたんです。そしてちょうどその時に、お母さまが取材に答えている映像を見ていたんですが、あの選手を、一緒に優勝を祝う仲間としてちゃんと迎え入れているんだというニュース映像が心に残っていたんです」と振り返る。それだけに「わたしにその役ができるかしら、と思いましたけど、監督のお話を聞くうちに、これはぜひともやらせていただかなければいけない役だなと。“できるできない”じゃなくて“やりたい”と思いました」と述懐。秋山監督も「あのまなみさんの役は京香さんじゃないとできない。今でもまだ夢じゃないかと思っています」と続けた。
今回、松谷には演技指導というものはほとんどしなかったという秋山監督。その意図について「僕は鷹也に、演じるというよりも、横田慎太郎さんの人生をもう一度生きてくれと伝えました。見た目やしゃべり方を真似るだけでは魂は伝わらない。どれだけその人物のことを考えて言葉を出すこと、その言葉のひとつひとつや、その時に感じたことが一番大事だと思うんです。特に命をテーマにするというのは、とても重いことなんで。ひとりの人生、ひとりの命を映画化するということは、命懸けでないとできないと思っているんです。そして鷹也はそこを全うしたんじゃないかなと思います」とひと言ひと言、かみ締めるように語った。
そんな松谷を間近で見ていた鈴木も、「慎太郎さんはとにかく野球が好きな青年だったんだなと思いましたし、その大好きなことを一生懸命やっている姿に、まわりの人は惹かれたんだなと思ったんですけど、鷹也くんも同じで。とにかく一生懸命現場にいてくれた。鷹也くんも慎太郎くんと同じように、自分の好きなことを今やれること、そのしあわせを感じて、すべてに全力投球だなと。わたしの中で鷹也くんと慎太郎さんは、同じように素敵な青年だなという感じですね」と誇らしげに語った。
