著書『ブラックボックス』(2017年)は、感情を排してジャーナリストとして執筆したという伊藤監督。その過程で、事件と距離を保つことでトラウマから「逃げていた」側面に気づいたそう。本作製作に当たっては、当事者としての映画を自分でも観たいと思い、ジャーナリストとしての自分は一度封印し、映画監督として、言葉にできない感情や向き合いたくない事柄に真正面から向き合った。
「450時間にもわたる映像素材と向き合ったことで、自分の中でいい意味で整理が出来たと思います。自分の身に起きたストーリーを組み立てて、観客の皆さんに伝える事が出来たのは大きな意味があると感じています」と本作への手ごたえを明かした。

今年の3月に行われた第97回アカデミー賞では長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた。日本人監督が同部門にノミネートされるのは史上初。エリックは「サンダンス映画祭からアカデミー賞まで色々と旅をして、多くのオーディエンスと交流し、一生忘れられない経験となりました。詩織さんのアカデミー賞ノミネートは歴史的な事だと思うし、日本でも詩織さんの事を評価していただきたいです」と期待。ハナも「アカデミー賞ノミネートは素晴らしい経験でしたが、最も光栄なのは今日のように映画館で観客の皆さんと時間を共にする事です。様々な映画祭で観客の方々が感動し、立ち上がり、自分の経験を通して本作を語ってくれる姿が印象的でした」と回想した。
最後に伊藤監督は「私の名前や私が経験した事件を忘れていただき、自分自身や自分の大切な人に当てはめて、似たような事が起こった場合に自分はどう動くのだろうか?と想像してほしいです。話しづらい事を少しずつオープンにしていけたら、それが私の願いです。皆さんの周りにあるBlack Boxについて考えて、それを少しずつ開けていく事が出来たらと思います」と呼び掛けた。