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甲斐さやか ─ 見たことのない世界を楽しんでほしい ─

(C)2024「徒花-ADABANA-」製作委員会/ DISSIDENZ

少年失踪事件を題材にした映画『赤い雪 Red Snow』(19)で鮮烈な長編監督デビューを果たし、国内外問わず注目を集めている甲斐さやか監督。彼女の5年ぶりの長編作品『徒花-ADABANA-』は、死が近づいている新次と、臨床心理士のまほろ、そして治療のために人間へ提供される「それ」との物語。甲斐さやか監督に、作品や出演者、スタッフについて語ってもらった。


─ 長編2作目となる今作を制作することになった経緯を教えてください

もともと自分が20代の頃からずっと持っていたプロットで。前作、前々作より前からですね。プロデューサーの方に「何かある?」と聞かれたら必ず見せていました。パンデミック後の話なので、いろんな人から「あの脚本はどうした?本当になったね」と言われ、音楽プロデューサーのakikoさんも「絶対にこれは今撮るべきだよ」と連絡をくれて。今回のスタッフではない人からも、やった方がいいよと言っていただきました。こういうパンデミックといったものが起きた時は、なし崩し的に紛争が起きたり、どさくさに紛れて大変なことが起きたりするので、今作るべきだと思い動き始めました。

─ 構想のきっかけは?

「羊のドリー」が最初のヒントですが、その後、中国にクローン人間がいるという噂が広まった時期がありました。それは都市伝説みたいな話ですが、ドリーができるのであれば技術的には可能で、人間のクローンができていないのは倫理上の問題なんだなというのは思っていて。クローンと同じ顔をした私が、1枚ガラスを隔てて鏡を見るように向かい合っている、というシチュエーションは、絵に描いて短いプロットにしてずっと持ち歩いていました。

─ そのシチュエーションから、前後の物語を組み立てていった?

そうですね。この作品の場合は設定とイメージが先に浮かびました。無菌状態のクローンを育てる施設で、私が相手と向き合い、その人を初めて見る。「それ」と呼んで動物なのか何か違うもののように思っていたものが、リアルに近づいてくる。

こういうことは現実でもあると思うんです。相手のことをよく知らないと、ものすごく恐ろしいものに思えたり、逆に意見が違うと思った人のことを動物のように恐れたり。クローンでなくても、例えば移民に対して壁を作ってしまう、といった分断も深まっていると思うので、そういうことに対するメッセージにもなるかと。当時も感じていましたが、パンデミックなどの混乱を見ていて、今これは作るべき作品なんじゃないかなと思いました。

(C)2024「徒花-ADABANA-」製作委員会/ DISSIDENZ

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