時間をかけて一緒に作った
─ 印象的な空間でしたが、ロケ地はすぐに見つかりましたか?
けっこう大変でした。宇宙を感じるような、SF映画的なところで撮影してしまうとリアリティもないし、お客さんに、地続きのそう遠くない未来と思って欲しかった。先のことだよねというよりは、自分事に思ってほしかったから、私たちのリアリティを感じられる場所がいいと思っていました。
一番重要視したのは、窓の外の自然。最初のスケッチの時から、ガラスがあり、クローンと新次がいて、その二人が映るガラスに緑が揺らいでいる、というイメージがあったので、自然が必要でした。それでいてそういう施設に見えなければいけないので、普通の山荘では無理ですし、けっこう大変でした。
私が今回のロケ地で惚れ込んだのは、庭が手付かずだったところ。ロケに貸し出しているような古い豪邸だと、結構庭に手を入れているところが多いと思うんですよ。でもそれが全然入ってなくて、木の生命力がかなりあったんですね。それを見てここに決めました。
─ 主演を井浦 新さんにお願いした理由をお聞かせください
ふとなにかで見た時に「それ」っぽい人がいるなと(笑)。井浦さんの持っている佇まいが、舟越桂の彫刻のように感じて。いろんな面があるから全部がそうとは思わないんですが、この作品を演じてもらえたらいいなというのが片隅にあったんですよね。それで前作の『赤い雪』の時に井浦さんに話をしたら、やりたいと言ってくださって。『赤い雪』の舞台挨拶で山形県や新潟県のあたりを回っている時に、この話をしていた思い出があります。
─ 撮影にあたって井浦さんに伝えたことはありますか?
井浦さんとは事前にたくさん時間があり、プロットから読んでいるのでいろいろ話はしています。『赤い雪』や別の撮影でもお会いしているので、すごく時間をかけて一緒に作ったといえばそうですし、現場でも色々お伝えしたことをやってくれました。自分の中で咀嚼してくださっているなと思ったら、それ以上言うこともないという感じで。
─ 井浦さんに2役演じていただいていかがでしたか?
極端に違いをつけすぎると、わざとらしいコミックみたいになってしまう。クローンもリアルな命に見せたかったんです。眉間に皺を寄せるかおでこに力を入れるかの違いぐらいの、すごく細かいことで十分違いは出るし、佇まいも変わる。そういう力の入れようや抜き方、そういうところから役を探りませんかというお話をしました。すごく勘のいい方なので、わざとらしくなく、でも違うというところを描けて、井浦さんで良かったなと。