暖日がいてくれてよかった
─ 今回、木下暖日さん、吉澤要人さんという若い2人がオーディションで主演に抜擢されましたね
いまの映画界は、全国公開するような映画で主役を新人でやるということを、ほぼ放棄してしまっている。それがYOAKE FILMの溝口さんたちのような、冒険する、挑戦する人がいることで可能になった。
オーディションでプロも全くの素人も書類選考して実際に会って、新人で映画を作るというのは、もう長らく日本映画ができなかったこと。それを軽々とやってのけた。やれないんじゃなくて、やる度胸、勇気がなかっただけということを教えられましたよね。そこはすごく刺激的で楽しかったです。
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─ プロの役者と並んでも、光るものがありましたか?
木下暖日が核にあって、(木下暖日演じる)往年と(吉澤要人演じる)竜馬はコンビですから、お互いに引き合う、巡り合わせみたいなものがあります。
暖日に関しては、最初に応募してきた安っぽいプロフィール写真を見ただけで、ちょっと安心したんですよ。こいつがいればなんとかなるんじゃないかと。
会ってみたら、全く演技の経験がなく、台本も読んだことがないし人前で演技したこともない。じゃあレッスンはしてるの?って聞いたら何もしていないと。なんで役者になろうとしてんだよ、という状態で(笑)。
初めて人前でやった演技が我々のオーディションで、その感じが悪くなかったんですよね。トレーニングをした人の芝居ではないから、すごくピュアで、過剰な演技をしない感じで、主役ってそれでいいんだなと。どの映画もですが、人間が光っていれば小器用にお芝居が上手な必要はない。観たいかどうかなので。うまいかどうかではなく、一瞬で印象に残るかどうか。いてくれてよかったなと感謝ですね。
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─ 演技について伝えたことはありますか?
どうかな。俳優さんが必要であれば演技や役について話はするけれど、あんまり得意じゃないというか、好きじゃない。
言葉で伝えたものを具現化するというよりは、感じられるようにする。衣装合わせのときに、このシャツは着ないよね、靴はこれじゃないだろう、髪の毛どうする、と探ってみたり。今回は出てこないけれど、主人公の家だったら、どんな部屋で、なにを飾るか。そこに立ってライティングを見たときに、求められているものや、その場で自分がどう生きるか、かっこよくあるかなどを、言葉じゃなくて感じてもらえる場所にする。言葉で偉そうに言っても、実際それがあなたにできるの?っていう。演じる方じゃなくてこっちがね。
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