チャチャが憧れる樂
─ 相手役の中川さんとの共演はいかがでしたか?
伊藤 私が脚本を読ませていただいた時の樂(らく)の印象よりも、すごく隙がなくて。ご本人の役に対する愛情みたいなところも、そういうところからとても感じられました。本当にストイックに現場に立っていらっしゃる印象があって、そんなところもチャチャが憧れる樂だなと。中川さんの佇まいもあってチャチャとしていられたので、助かったなぁというか、引っ張っていただいた印象でした。
─ 撮影中のエピソードや思い出があれば教えてください
伊藤 クランクインは2人だけの屋上のシーンからでした。屋上で初めて会うシーンと、後半の屋上のシーンも撮影するスケジュールだったのですが、初日はチャチャのことが全くつかめていなくて。その時にとても親身に、頑張ろう、というように見守ってくださったので。迷惑をかけましたが、現場にいてくれてすごく安心しました。後半にかけて、やっと中川さんが演じる樂の存在感が自分の中でもはっきりと強くなり、輪郭が見えてきた感覚はありました。それもあって後半の森のシーンのところで、本人の人間味を実感するようになり哀愁を感じました。
─ 監督から伊藤さんに演じる上で伝えたことはありますか?
酒井 伊藤さんの持つクリエイティブに対する考え方みたいなものと、ご本人では気づいていないご本人らしさみたいなところをすごく大切にしたいと思っていて。なので変にお芝居をしようというよりは、伊藤さんが歩いたら普通の歩き方じゃなくて、踊りながらというか、地上からちょっと浮いているようなイメージなんですけれど。そういうのを消さないでほしい、そのまま撮影したいので、というのはずっとお伝えしていました。
伊藤 ずっと仰っていたのですが、わからなくなってしまって(笑)。客観的に自分がどう見えているのか、ということは考えなかったですし、チャチャがきっかけで、チャチャを考えるために、自分を観察しなきゃいけないんだというところに至りました。
今までは何かを作るときに、自分の内面だったり、コンプレックスをどうにかしたくてものづくりに取り掛かるみたいな感じでした。傍から見える、普段の自分の様子をお話してくださっていたのですが、本当にわからなくて。「本当にわからない。わからない、あ〜っ」となりながら撮影していました。
酒井 その迷う危うさもすごくいいなと思いながら見ていました。