リアリティを出すための光
─ 関根監督とは『生きてるだけで、愛。』に続き、映画2作目となりましたね
『生きてるだけで、愛。』のときとは違って、今作は増本プロデューサーの企画・脚本だったので、自分たちがやりたいものと、増本さんがやりたいものをどうしていくかを話し合いながら現場が進んでいました。増本さんは、これだけの脚本を作る人なだけあって強い想いがあるので、やりとりはけっこう起きていましたね。
やっぱり関根監督はすごいな、と思ったのは、いろんな人の意見をちゃんと聞いてまとめあげられるところ。どうしても意見が合わないこともあるので、そういうときにきちんと冷静にまとめることができる人だなと思います。こっちは興奮して「えーっ!?」となっているときでも、監督は意外に冷静というか(笑)。

─ 照明の中須岳士さんとはどんな話をされましたか?
夜のシーンが多く、しかも埠頭はあまりにも広大じゃないですか。船って光っているから、その光っている船を現場で役者に感じてもらわないといけないのに、どうしよう?っていうことですね。
100個ぐらいの電球とHMIライトを、ハイライダー(高所作業車)4、5台で上に掲げて、そこから照り返しを作って撮影しました。ダイヤモンド・プリンセスは全長300mぐらいあるので、実際にそれを再現するとしたら大量のライトが必要になるけれど、どこまで用意できるのか。カットによってずらす計画など、中須さんといろいろ話をしながら撮影していきました。

─ 光があるかどうかで演者の気持ちも変わりそうですね
光がないと多分気持ちが作りにくいですよね。リアリティが出ないというか。
窪塚洋介さんがいた船内式場は、窓が10個ぐらいあって、外からの光をずっと同じ状態にキープしないといけなかったので、太陽の光を全部切った上でライトを打っています。あのシーンも、中須さんとどうやったら長回しで光を変えずに撮れるのかをいろいろ計画して、ハイライダーを8台ぐらい外に並べて撮影しましたね。

─ ルックはどのようなイメージで作られましたか?
映画の場合、ルックは監督と2人で決めてしまうことが多く、監督からもあまり言われないのですが、増本さんは画に対してもセンシティブな感覚を持っていて「こうしたい」というものがある人なんですよね。もちろん任せてくれるところもありますが。
フィルムルックはいらないし、黒をすごく締めて劇画調にするのもいらない。美しく黒の中の諧調を全部ちゃんと見せてほしいと。そのためにALEXA 65で撮ってるんじゃないのか、といったことで色々議論になったんです。
いろんなことをやってるうちに、かなり長い間、トータルしたら1ヶ月半とか2ヶ月ぐらいやっていたかな。普段はこんなに長くグレーディング(色調整)することはないのですが。
─ 最終的な落とし所としては?
僕も増本さんの言ってることがだんだん分かってきて。アートならいい、フィルムルックならいい、と偏っていた自分もいて、そこは1回外したんですね。そこはもう置いとこう今回はって。ALEXA 65で撮っている良さを出せたら今回はいいんじゃないかと。ルックは、海外の、サチュレーションが低めだけれどリアリティがちゃんとあるところに着地したいのは、お互い一緒でした。

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