原作者の想いも受け継いで
─ 監督から出演者のみなさんに伝えたことはありますか?
キラキラ映画にはしたくない、といった話はしていました。分かりやすく言うと、現実離れしたものにはしたくなかった。ちゃんと10代の子たちが観て共感できるものにしたいという想いがあったので、気になることがあったら言ってほしいということは、メインキャストの5人にも伝えていましたね。
あとは、原作の想いもしっかりとキャストの皆に受け継いで欲しかったので、住野先生にお願いをしてメッセージを書いていただいたんですよ。役に対する想いを書いてもらって、5人に読んでもらって。リアリティと原作の想いの受け継ぎみたいなところは強く意識していました。
─ 新潟での撮影はいかがでしたか?
今回は幸いにもスタジオや廃校ではなく、学校側の全面協力のもと、実際に今も稼働している高校をお借りして撮影ができたんです。
校長先生を始め学校の皆さんが協力的で、生きた環境で撮影ができたので、キャストも高校生という気持ちを作りやすかったと思いますし、映像として観ても実際の生きた空気感を反映できたと思うので、すごくありがたかったですね。新潟の、人の優しさみたいなものを感じました。

ラストシーンの仕掛け
─ 印象に残っている撮影現場でのエピソードがあれば教えてください
印象的だったのはラストシーンですね。

もともとこのシーンのセリフはオフにすると決めていました。というのも、原作でこのシーンはないんです。でも映画にしたときに思いを伝える描写がないと、作品として締まらない。なのでこのシーンを入れたのですが、じゃあ京くんはどう伝えるのかな、と考えると、何を言わせても野暮になる気がして。
あれだけ自分の気持ちをうまく言葉にできない京くんが、すごく気の利いたことを言っても、「ええっ!?」ってなるじゃないですか。逆に京くんらしい、拙いけれど思いだけは伝わる、みたいなことを言っても、お客さんが感動するかなと思うと、たぶんできない気がするんですよ。となると、これはお客さんの想像に委ねた方がいいなと思ったので、あのシーンでは音は使わないという判断をしていたんです。
とはいえ、なにかを喋ってる画は必要なので、奥平くんが思うミッキーの魅力を京くんとして話してもらったんです。「撮影スケジュールの最後の方にこのシーンを撮影するから、出口さんたちと過ごす中で感じたことをそのまま言葉にしてほしい」とお願いして、何を話すかは奥平くんにお任せしました。

奥平くんが映っているカットはそうやって撮ったのですが、次にミッキー側を撮るときに、ひとつ仕掛けをしました。
僕たちから京くんに、「これを読んでくれ」ってカンペを渡したんですよ。内容は、スタッフから集めた出口さんのおもしろ可愛いエピソードのリスト。
出口さんは、さっき撮影したのと同じ会話が来ると思って、背中を向けて待っているじゃないですか。そしたらスタッフから集めた面白エピソードが発表されたもんだから、こらえきれず笑っちゃうわけですね。耐えきれず笑っちゃったという、すごく自然な可愛い笑顔が撮れました。
そういう遊びをしつつ、映画を観ているお客さんには聞こえないので、「この会話って何言ってるんだろう」と興味を持たせることができる。興味をもってもらうことが僕たちの仕事なので、そのための仕掛けとしてそういうことをやったんです。お客さんが想像したセリフを超えるものって多分ないだろうから。
そうしたら、なかなか狙っても撮れないような出口さんの表情が撮れたから、それは面白かったし、チャレンジしてよかったなと思ったことですね。
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