ドキュメンタリー的な感性で

─ 前作でも印象的な体育館のシーンがありましたが、体育館に特別な思い入れはありますか?

特にはないですね。単純に行事ごとを行うのは体育館だから、という。ただ、学校の校舎の中で体育館ほど広い空間は他になくて、静けさが際立つ場所なので、演出として効果的な場所だなとは思いますが。でも確かに僕の過去作で印象的なシーンはだいたい体育館ですね。あまり意識はしていなかったです。

(C)2025『か「」く「」し「」ご「」と「』製作委員会 (C)2017住野よる/新潮社

─ 前作2作品に引き続き、今回も伊藤弘典さんが撮影されていますね

伊藤さんはもともとテレビ業界出身のカメラマンなんです。テレビって映画みたいに動きが決まってるわけではないので、何が起こるかわからない。なので必然的にドキュメンタリー的な感性が求められる場所だと思います。

以前から、きっちり決めて撮らず、まさにその場にいて話を聞きながら見ているような撮り方を模索しているのですが、今作でも高校生のリアルな空気感を出すために、ドキュメンタリーチックな撮り方をしたいなと考えていました。伊藤さんはテレビ出身っていうこともあって、起きたことに対する対応力がすごく秀でていて、いつも僕の狙い通りにパフォーマンスしてくれてとても助けられています。

今作はフィックスで撮っている画ってないんじゃないかな。それぐらい手持ちにこだわってやってますね。

─ 画のルックとしては青が印象的でした。全体のトーンはどのように決めていったのでしょうか?

衣装の阿部さんからの提案で、「爽やかな高校生たちのお話だったので、サイダーみたいな淡いブルーをイメージカラーにして、衣装を用意してみました」と言われて、それいいですねと、衣装に限らず作品のキーカラーとして取り入れました。

それをベースに、能力の記号の配色もブルーの地に映えるようにイエローにしてみたり、衣装を軸に作品の基調が決まっていったので、阿部さんには世界観の調整でかなり助けてもらった感じです。

(C)2025『か「」く「」し「」ご「」と「』製作委員会(C)2017住野よる/新潮社

─ 今作のポイントとも言える「感情を表す記号」のCGはどのように作っていったのでしょうか?

作品のリアリティみたいなところを追求していたので、ファンタジーにはしたくなかったんですね。あたかもその記号が実際にそこに存在してるかのようなデザインにしたかった。なので実際に存在する物の質感を帯びているものにしたいという話をしました。

京くんの能力で見える「!」は、スクイーズというおもちゃの、ちょっとマットでプニプニした素材感を再現してみたり、ミッキーのバーは、公園のシーソーをイメージしてウッドな素材にペンキで色が塗られてるみたいな作りにしてみたり。ヅカの喜びのマークは、化粧品によく使われてるグリッターやラメのようなものにしてみたり。ファンタジーにならないように、実際に存在する物の質感をもった記号表現を目指してデザインしました。完成までかなりやり取りを繰り返しましたね。なかなか難しかったですね。

エンタメで包んでお届け

─ 今後はどんな作品を作っていきたいですか?

今までもこだわってきたことなのですが、観た人にとって何か持ち帰るものがある作品にしたいなと思っていて。発見だったり気づきだったり学びがあること、「そういう考え方で物を見たことなかった」とか、「そういう発想なかったな」みたいなことを大事にしてきました。楽しかった、だけで終わらないような作品作りっていうのをこだわってやってきたし、この先もやりたいなと思っていて、逆に言うと、そこがブレなければジャンルは問わずなんです。

映画って、いろんな考え方がありますが、僕は第一にエンターテイメントであると思うんですね。エンターテイメントの一番の強みは、人が集まるところ。世の中の人にもっと知ってもらうべきだとか、知ってほしい情報を発信する媒体として、映画はとても優れているんです。なので、社会問題などはある意味すごく相性がいいと思います。そういった、エンターテイメントのポテンシャルをうまく発揮できる作品作りをしていきたいなとは思っていますね。

大事なメッセージを説教臭く伝えるんじゃなくて、エンターテイメントの皮をかぶって、と言うと少し不誠実な感じがしますが、エンターテイメントでくるんでお届けするみたいなことは、今後もやっていきたいなと思っています。

─ 最後に記事を読んでいる方にメッセージをお願いします

タイトルが『か「」く「」し「」ご「」と「』なので、隠してる何かが当然あるわけなんですが、「人には言えない能力」のことを隠してると思うじゃないですか。実は違うんですよ。隠している何かがあって、隠している理由があって……。みたいなところが描かれていくので、“ かくしごと ” ってなんだろう?と自分なりに想像しながら観ていただくと、より楽しめる作品になっていると思います。ぜひそんな観点で楽しんでもらえたら嬉しいです。

中川駿 NAKAGAWA SHUN

1987年生まれ、石川県出身。
大学卒業後、イベント制作会社を経て独立。ニューシネマワークショップで映画制作を学ぶ。自らが脚本・編集・監督した短編『カランコエの花』(16)はレインボー・リール東京 ~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭でグランプリを受賞したほか、国内の映画祭を席巻。その他、監督作品に『time』、『尊く厳かな死』(14)、『UNIFORM』(18)、初の長編監督作『少女は卒業しない』(23)などがある。

『か「」く「」し「」ご「」と「』

大ヒット上映中!

主演:奥平大兼、出口夏希

出演:佐野晶哉(Aぇ! group) 、菊池日菜子、早瀬憩、ヒコロヒー

監督・脚本:中川駿

主題歌:ちゃんみな「I hate this love song」(NO LABEL MUSIC / Sony Music Labels Inc.)

原作:住野よる『か「」く「」し「」ご「」と「』(新潮文庫刊)

配給:松竹

(C)2025『か「」く「」し「」ご「」と「』製作委員会
(C)2017住野よる/新潮社

『か「」く「」し「」ご「」と「』公式サイト

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