コロナ禍でそれまでのような映像制作ができなくなり、制限の多い中でも、模索しながら新作映画を製作し続けてきた田中晴菜監督。前回の特集上映でも好評を博した短編2作に加え、新たに『幸福な装置』ほか新作3本を加えた5作品が一度に観られる特集上映が池袋シネマ・ロサで5月18日より開催される。そんな田中監督に作品への想いを伺った。
朗読劇を映画に
─ 新作『幸福な装置』の製作はどんなスタートでしたか?
元々はオスカー・ワイルドの童話短編集の中の1つ「幸福な王子」がこの作品のベースになっています。「ショートショート フィルムフェスティバル」の小説部門みたいなものがあるのですが、パブリックドメイン作品を元に小説を書くコンペで、そこに応募するために「幸福な王子」を翻案した話を書いたのが始まりです。
ただ当初は劇映画にするようなイメージはなくて、その後、コロナ禍に入ったときに、今までとは別のやり方で作品作りができないか、キャストさん同士の接触があまりない状態で、何か映画が撮れないだろうかと考えて、朗読劇を映像として撮るというのを思いつきました。今回撮影と録音をしてくださった中島さんに「こんなことをやりたいと思っている」っていう話をしたら、面白そうですねということになり、動き始めたという感じですね。
─ ロケ地がとても魅力的でしたね
今回のロケーションに関しては、ほとんどが栃木県内です。コロナ禍で遠方への行き来も難しくなったこと、また地元について知らない部分も多かったので、この機会に自分の原点に立ち返ってみようという想いもあって、私の出身地で、今も住んでいる栃木県での撮影が多くなっています。
冒頭の前半部分のところは、宇都宮市の大谷にある石切り場で撮影をしています。現在はもう石切り場としての役目は終えているのですが、人工的に切り取られた四角にくり抜かれたような空間がすごく魅力的だなと。作品が近未来の設定なので、非現実的に見えるロケーションを選びました。
─ キャスティングはどのように決めていきましたか?
主演の星能豊さんに関しては、最初に出会ったのが愛知県おおぶ映画祭でした。それまで私が観ていた作品での星能さんは結構荒々しい役だったので、実際に会うとソフトな方で、ちょっと飄々としたところもあり、思っていたのと全然違ったなと。舞台挨拶を聞いて、お声がとても素敵な方だなという印象でした。この普段の声のトーンで、私の作品に出演してくださったらすごくいいな、と思って、映画祭の打ち上げのときに「ぜひ出ていただきたい役があるんですけど」とお話させていただきました。
岡慶悟さんとは、1作目の『いきうつし』からずっとご一緒させていただいていて、かれこれ7、8年になります。今まで私の作品の中でやっていただいた役とはちょっと毛色の違う部分も見たいなという想いもあり、つばめに関してはわりと当初から岡さんのイメージで書いていました。今回、衣装を岡さんに合わせて作っていただきましたが、あの衣装を着こなせるのは岡さんぐらいしかいない、というのもありました。
一番悩んだのは棺桶役でした。原作には女性の要素はないので、どんな方にするかで作品のイメージもだいぶ変わってくるので、当初のイメージでは、母親のようでもあり、少女のようでもある部分が出せる方にやっていただきたいなと考えていました。
清水みさとさんの舞台は何度か拝見していて、普段サウナの番組などに出ているイメージと違って、舞台上ではヘビーな役柄を演じられているのを観て、振り幅があってとてもおもしろい役者さんだと感じていました。ダークなトーンの役柄の清水さんを見てみたいと思い、今回オファーさせていただきました。
─ 撮影現場で印象に残っているエピソードがあれば教えてください
今回全て外ロケーションで撮影したので、天候にはかなり振り回されました。約3日の予備日を用意していたんですが、3日とも天気が合わなくて、スケジューリングとロケーションのセッティングには苦労しました。
役者さんに対しては、朗読劇を映像で撮るというのは皆さんあまり経験のないことだったので、リモートで読み合わせを何回もやらせていただいて、細かいところまですり合わせていきました。それもコロナ禍になったからできたことかもしれないですね。徐々にリモートなどに世間的にも慣れてきた頃だったからこそ、お互い遠方に住んでいてもできたのかなというところはあります。