長編物語の責任
─ 長編化するにあたり、意識されたことはありますか?
もともと長編にするとは一切考えずに制作していた短編でした。長編化をするうえで意識したのは、これだけの尺なのであれば、もう少し謎解きをした方がいいなということ。短編だと、怖い描写だけを並べても成立はするんですが、もう少し物語の責任みたいなものを追う必要があるなと感じました。短編で賞をいただいてからいくつか企画を出し、どういうロジックで神隠しなどが発生しているのかの一端がわかるように、物語を構築していきました。
─ 総合プロデューサーの清水さんからアドバイスはありましたか?
そうですね。脚本の最初の初稿か2稿ぐらいのタイミングで、1度読んでいただき、その後も何度か読んでいただきました。
僕は自主映画出身で自分で脚本も書いていたので、独りよがりになる部分もあるし、お客さんの方を向いているというよりは、自分の感覚で物を考えているところがあるんです。清水さんは観客とずっと向き合い続けて制作している方なので、冷静な意見・アドバイスを頂きました。「これだと伝わらないかもしれないから、もっとこうした方がいい」とか、逆に僕が不安で饒舌に書いている部分は「逆にこんなに説明してなくていいんじゃない?」みたいなことです。僕自身の作風のようなものを審査の過程で理解してくださっていて、強みの部分はちゃんと活かした上でバランスをとっていくアドバイスをいただいたので、ちゃんと反映させたつもりではいます(笑)。
考える余地を作る音の表現
─ 静けさの恐怖を感じましたが、その辺りは意識されていますか?
リアルな雰囲気をなるべく大事にしました。ホラー映画の常套句みたいなものを使用してはいますが、多用しすぎないようにして、お客さん側が「いわゆるホラー映画のパターンだよね」となりづらいようにチューニングしていきました。
はじめ整音チームと相談をしている際に、音で演出意図を伝わりやすくもできますよと提案されたのですが、伝わらなくてもいいからこうしておきたいと。こっちの方が多分怖いから。音や映像、演技もそうですが、最終的には怖いか怖くないかを判断基準にしました。
音数を増やせば増やすほど、考える必要がなくなっていく。この映画は、考えるという行為が怖さのトリガーになるはずだから、考える余地がなくなるような音はやめましょうという感じで作っていきました。結果的にそのことを深く理解していただいて、整音もそういった方針になりましたし、音楽を担当していただいたTejeさんも、意図を汲んで、静かだけれど不音な感じが伝わるような音楽を制作してくださったので、とても良かったなと思います。
─ 楽曲の制作について、監督から伝えたことはありましたか?
意図として「こういうイメージの怖さです」ということは伝えていました。
最初Tejeさんに、どこで音楽が鳴るべきか、鳴らないべきかを聞くと、全ての箇所に音楽がいらない、音楽でどうこうするような必要を感じないとおっしゃって。もし本当に入れるんだとしたら、というので制作してくださったんです。
なので、僕から具体的に「ここにこういう音楽をかけたい」という指示をしたというよりは、大切にしているトーンや、簡単に感情を誘導しないような曲作りのイメージだけはお伝えしたという形です。具体的に音になったのを最初に聞いたときは、ここまですごいことになるんだ、と本当に感動しました。