見えないけれどいるぞと感じるリアリティー

─ 監督にとって、これぞ「Jホラー」という特徴はなんでしょうか?

『その音がきこえたら』の時から試行錯誤している部分ではあるんですけど、自分なりにJホラーの歴史を定義すると「心霊表現におけるリアリティーの更新の歴史」だと考え直したんです。

高橋洋さん、小中千昭さんなどいろいろな人が参考にしたと公言しているホラー映画に『たたり』と『回転』があります。ロバート・ワイズの『たたり』は、幽霊が画面に映らない1963年のホラー映画。『回転』は逆に、今のJホラーのおなじみの、幽霊が遠くに立っているという表現をやっていて、そっちの方がインパクトがあるので、みんな『回転』の方向に進化していったのですが、根っこを辿ると『たたり』と『回転』がある。なら自分は『たたり』方向の枝を伸ばしていってみようということで、幽霊が画面に映らないから怖い、という表現を研究しながら作ってきたところがあります。

なので「幽霊がどう見えるか」のリアリティーではなく、「見えないけどいるぞと感じるリアリティー」をどうやっていくかということで、Jホラーの表現を考えているという感じです。

─ 学生時代からその方向に興味があったのでしょうか?

いや、そんなことはないですね。私が映画美学校に入ったばかりの27歳の時、その時はいわゆる『呪怨』や『回路』みたいな表現を自分でも制作してみたいという欲望が強かったです。『回路』っぽいショットが撮れていることが面白くて気持ちいい、それが楽しいというのが最初。それを繰り返したときに、当時の講師だった三宅唱さんから「怖くもないし、面白くもないよ」と言われたことがあったんですね。そう言われたときに、Jホラーみたいなものをやれてることで喜ぶタームはもう終わったんだなと。

それを言われるまではちょっと褒められたりもしてたんですけれど、Jホラーっぽさがうまくていいね、というだけで、それ以上になれることがない。自分なりに怖さの表現を更新することを真剣に考えなきゃいけないんだと感じました。それ以降はかなり苦しんで、どうやったら本当に怖い作品が撮れるのかを考えています。

若くて素晴らしい3人の役者が集まった幸運

─ 主演の杉田さんとご一緒していかがでしたか?

本当に素晴らしかったです。1番最初にクランクインで撮ったのがスーパーでのシーンなんですが、セリフもそれほど多くあるわけでもないし、流そうと思えばいくらでも流せてしまうようなシーンでした。クランクイン初日で緊張もしているし、不安もいろいろある中で、杉田さんが立っている姿を見て安心したのをよく覚えています。

モニターで見たときに、映画の画面にこの人が立っているのが合うなという、そういう存在感がはっきりとあるのは、すごく稀有なことだなと思います。自分が映画を撮ることがあったら杉田さんに出演していただきたいとずっと考えていたので、実現して本当に良かったなと思います。

─ スーパーのシーンの杉田さんの表情は印象的でした。最初から狙い通りの演技だったのですね

役への理解がとても進んだ状態で来てくれているということも大きいし、分からなかったらはっきりと聞いてくれて、コミュニケーションのスムーズさみたいなものも感じていました。「ここはこういうことですよね?」といった話し合いも割と早い段階からできたので、そういう意味でも本当に素晴らしいなと。

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