この悔しさや声を残さないといけない
─ 『刻』の制作中に、『満月、世界』を制作しようと思った経緯について教えてください
『刻』を撮影している中で、満月(みつき)という女の子と秋ちゃんという女の子に出会いました。『刻』では役を演じてくれているんですが、満月に出会った時に、満月自身のことも撮影しておきたいなと思って、彼女自身のことを書いたのが『満月』です。『世界』は秋ちゃんのことを書きました。 あの子たち自身の人生の声みたいなのも撮っておかねばと思う2人だったので。
─ 主演のお2人との出会いについて教えてください
映画を作るために子どもたちと出会いたかったのですが、オーディションは、出演すると決めている子どもたちを私が選ぶというのが嫌だなと思って。私が出演して欲しいとお願いして、向こうが決める方が納得ができたんです。なのでオーディションではなくて、映像のワークショップを開催しました。そこに満月が来てくれた。
このワークショップで子どもたちそれぞれにセルフドキュメンタリーを撮ってもらったんですが、満月が撮った作品がとても良くて。満月のことを撮影したら、みんなが抱えている不安や光みたいなものを撮れる気がして、満月を撮ろうと思いました。
『世界』については、『刻』を撮影している最中に秋ちゃんから電話がかかってきて、「作文を書いたんだけれど読んでくれないか」と言われて。読んだ作文は秋ちゃん自身の吃音のことを書いた作文でした。その作文がすごく良かった。私は、秋ちゃんのこの作文を残さないといけないと思ったというか、この悔しさや声を残さないといけないと思い、それがきっかけで『世界』を書きました。
─ お2人は自然に演じられているように感じましたが、どれくらい演出はされていますか?
『満月』は満月本人にICレコーダーを持たせて、1ヶ月ぐらい音声を録音してもらったものを元に書きました。脚本のほとんどが満月が実際に言ったセリフなんです。なので満月が言えないことはあまり書いてないというか、満月がわからないことは書いてないです。でもストーリーにする上で私の言葉になっているところもあったので、現場で満月が言いづらそうだったら、満月はこういう時どういう風に言うか、こういう時はどういう風に感じるかを聞いていきました。満月がそれだったら言わないなとか、それだったら黙っているとか、こういう風に言うと言ったら、じゃあそうしようと言って変更していく感じでした。だからあまり演技はさせないで演技をさせるみたいな感じ。
秋ちゃんも、秋ちゃん自身だったらどうかと聞きながら書いた脚本。秋ちゃんが言えないことはなるべく書かない、秋ちゃんができないことはしないという感じで演出をしていきました。