フィルムに子どもたちが映るのはすごくいい
─ 『満月』の撮影に16mmフィルムを選んだ理由を教えてください
私は大学時代もフィルムで映画を撮影していた人間なので、フィルムはすごくほっとするメディアです。今はフィルムもデジタルも撮影の後の作業がきれいなので、どっちで撮影されたか私もわからないところもあるんですが。
でも、まずフィルムの概念が好きなんです。フィルムは生ものなので、私たち生身の人間を信号で保存するよりも、その生のモノに生の人たちが焼きつけられている、その概念がすごく納得するというかほっとして。フィルムに子どもたちが残るのはすごくいいなと。あとは、デジタルは多分10年間撮り続けるとすごく進化していくと思うんです。でもフィルムは根本が同じ素材であり続けられるだろうと思ったので、『刻』はフィルムに向いている作品だなと思い、フィルムで撮りました。
『満月』は『刻』を撮り始める前に撮った作品。子どもたちに、『刻』と同じ体制でフィルムでこういう風に映画を撮るんだよというのを体験させて、その上で私と一緒にやっていく気があるかないかも選んで欲しかったので、そういうつもりで練習という意味も含めて使用しました。
─ 撮影した映像を観ていかがでしたか?
小さいことかもしれないんですが。カットがかかりフィルムが切れる瞬間に、露出が上がるんですが、カットと言われた瞬間に子どもたちがリラックスする瞬間が、露出が上がる際に映っているんですよ。
その瞬間の前までは、みんなセリフが言えるかなとかちょっと緊張して役を演じてくれているんですよね。でもカットとかかった瞬間に、みんながスタッフや私を見て笑うんです。それが映っている瞬間に、あの子たちの役とあの子たちの本物みたいなものが、1本のフィルムに一緒に映っている。露出が上がる瞬間に消えるのが、今しかあの子たちはいないんだな、と感じてしまうというか。それが、編集していて美しいなと思います。光の中に消えていく感じが、フィルムとあの子たち自身がすごく美しく残っている瞬間で好きですね。
─ 『満月』はタイのポストプロダクションで仕上げをされているんですね
プロデューサーの今井さんが紹介してくださったWhite Light postというチームです。今、タイは色彩が1番強いんじゃないかというぐらい、最近観た映画でこれ良かったなという作品を全てやっているところ。実際に作業していただいて、色彩がとても美しかったです。
あとは私はアピチャッポン監督が大好きなのですが、音をアピチャッポンのチームに作業していただけるということでそれはもう大喜びでした。実際に技術がすごかったです。
─ どんな違いを感じましたか?
どう違うのかはうまく言えないんですが、光が柔らかいまま綺麗に色が出てくるというか。フィルムはすごく柔らかく光を残しているはずなのに、色を信号で動かしていくとその光の柔らかさを失ったりすることを私は感じることが多くて。大学時代、フィルムでタイミングという調整の作業をすると、柔らかさは残してタイミングができる感じがあったんです。タイのみなさんは、その柔らかいフィルムの感じを残したままいろいろな色を出すことができるのがすごいなと思って見ていました。