また、宇多丸が感心し、心揺さぶられたのは、セリフで説明するのではなく、人物の動きや表情などで説明するという演出だった。その例として、黒川想矢演じる真宙が、桜田ひより演じる亜紗に「スターキャッチコンテストに参加できないか」と電話をかけるシーンに感銘を受けたと語る宇多丸が「電話の中身は聞かせずに、明らかに弾んでいる真宙くんの後ろ姿と、ウワーッと走る亜紗の姿が違う場所なのにシンクロしていって。もうそこで『若者よ、幸あれ!!』という想いが本当に込み上げてきてしまいました」と興奮ぎみに語ると、「この映画って要所要所の省略表現が本当に素晴らしくて」と絶賛する。

そんな宇多丸の指摘に我が意を得たりと笑顔を見せた山元監督は「やはり真宙の最高潮は勇気を出して、あの電話のボタンを押したというところだと思うんです。あそこがあの子の最高潮なんですよ。その後の言葉は絶対に用意してなくて、たぶん相手を説得できる言葉なんて彼にはないんです。でも電話をかけたというこの行為自体が亜紗にそのまま伝染すればいい。そこからいろんなバトンを渡し続けることで大きな輪をつくっていく、というのがこの映画の見どころというか、魅力のひとつになってるんじゃないかなと思います」。