さらに山元監督が「もちろんセリフのラリーで見せていく面白さ、会話劇の面白さもあるんですけど、自分の心が震えた映画の世界は、セリフに頼らないで、動きで感情がすごく見えてくるもの。それで最後にボソッと言った一言があまりにも名言であるみたいな。そういう映画がすごく好きだったので、自分もそういう作家になりたいと思っています」と語ると、「もうなれてます……どころか、めちゃくちゃ手練れですよ」と宇多丸の称賛は止まらない。
思わず「いいんですかね……こんな1作目で褒めていただいて」と恐縮することしきりの山元監督。すかさず「ただこの映画はマジックが起こりすぎてるから……だから(次は)危ないなと思ってますよ」と冗談めかした宇多丸だったが、とは言いながらも「でもそのマジックは、ある種の計算とデザインと覚悟のもとでやられているということなので。全然偶然じゃなくて、必然だと思います」としっかりと太鼓判を押すひと幕も。そして、「だからこそ、山元さんみたいな若い監督が、こうした引き算を意識的にやっているということが、僕はすごい希望だなと思っているんです。やはり不安だから、セリフで説明しなきゃ分からないんじゃないか、というような映画ってありますからね」という宇多丸に、山元監督も「でもそこは覚悟の持ち方だと思います。こちらも(映像で)情報はいろいろと出しているので、そこをいかに結びつけられるか。やはり映画ってその人が持ってる感情や生きてきた時間の中で、見えるものに対しての差異は生まれるものなので。となると、その中で僕はこう思う、という自分の中での映像的言語で紡いでいくしかない」。

その上で「松井俊之さんとかプロデューサーの皆さんからは、これに対して(説明的な)セリフを入れろとは一切言われなかった」と明かす山元監督に、宇多丸も「さすが!それこそ松井さんは『THEがFIRSTがSLAMがDUNK』をやられた方ですし、あれこそ一番大事なところでセリフをオフにする映画ですから、最高ですよ。あれは(原作者)ご本人がやってるから許されてるってこともあるかもしれないけど、あれこそ原作の正しいアニメ化のカタチです!」と力説すると、「でもいわゆるアート映画的ということでもなくて、山元さんはもちろん(観客に)分かるようにつくっているから。それは娯楽映画の構えとして、適切なバランス」と付け加えた。
そんな大盛り上がりのトークショーはあっという間に時間切れ。話に夢中になりすぎて「もう?うそでしょ?」と信じられない様子のふたり。最後に山元監督が「公開から2ヶ月たって、まだ上映していただいてるのは本当に皆さんのお力添えのおかげ。このまま冬まで“良いお年を”上映というのをやりたいので、冬まで上映が続くよう応援をよろしくお願いします」とあいさつすると、宇多丸も「これは文句なしにすばらしい傑作だと思いますし、やはりいろんな規模の映画、いろんなタイプの映画があるべきだと思うんで、皆さんもちゃんと人目につくところで褒めること。これは重要な活動ですからお願いします」と会場に呼びかけた。