綾野剛に気付かされたこと
─ 綾野さんは放っておいても大丈夫な存在とのことですが、撮影の際、綾野さんはかなり粘られたそうですね
よく「演技バカ」とかいうじゃないですか。綾野さんの場合は「演技変態」の域になっていました(笑)。でも今回、僕は綾野さんに鍛えられましたね。僕がOKを出しても、綾野さんは欲張りだから「時間はまだあるから、もうちょっと面白くなるものありますかね」と目をキラキラさせて言ってくるんですよ。内心「今のでいいんだけど」と思っても、じゃあ、別なこともやってみようと提案して、やってみたらそれが一番良かった、ということもあるわけです。
綾野さんは欲しがりで、時間が許す限り、一段階、二段階と上げたいし、演じていたい人なんです。「他にないですかね」と綾野さんに言われて、面白いアイデアが出ないと思われたくないし、プライドがあるから、何度もアイデアをひねり出して、もはや大喜利みたいになっていたんですが、1つレベルが上がるのだから、これはやらなくちゃいけないなと。めちゃくちゃ疲れますけど、OKだと思っても、さらにもう1個、何か考える癖をつけようという気持ちになりました。
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─ 綾野さんの芝居への粘り強さと情熱が監督を変えたんですね
最近、僕にそういうことを言う役者はいないから。これまではOKならそれでいいと思っていたけれど、それは自分にストッパーをかけていたんだと気づきました。
─ 磯村さんも監督が仕事をしたかった俳優のひとりだったそうですが、今回、演出をしていかがでしたか?
磯村さんはね、もう思い出がないくらい優秀でした(笑)。本人、あまり芸能人らしく振る舞うタイプではないし、付き合いやすいし、いい人なんです。だから印象深いエピソードがない。綾野さんだと「手がかかるけどやっぱりすごい」とかいろいろ話が出てくるんだけど、磯村さんはそういうのがないんです。
でもみんなが出演依頼をする気持ちがわかります。だって絶対にシーンを面白くしてくれるし、ミスもしないし、勝手にちゃんと芝居してくれるし、完璧ですから。

─ 磯村さんの演じる龍之介は、やたら謝罪したがる拓海と、被害者なのに優しすぎる埜本の間に立ってとまどうという、難しい役だと感じました
そうなんですよ、でも難しくて悩むとかそういうのを出さないから優等生なんです。普通は僕が「ごめんなさい、ちょっと違うな」とか言って、俳優が悩んでいるときに声をかけ、時には放置してとかやるんだけど、磯村さんはずーっと正解しか出してこないから、全然思い出話がないんです(笑)。
─ 今作のアーチェリーのように、監督の作品にはご自身の経験が反映されている印象があります。意識的に入れているのでしょうか?
例えば『神は見返りを求める』という作品はYouTuberの話だけれど、僕はYouTube配信はやったことがない。でも恩を仇で返す女には出会っているし、自分も見返りを求めたくなる性格だったりする。僕が持っているものを映画に投影しています。でもそれを取り巻く“側”の方は、新しいものを使ったりしますね。アーチェリーは経験あるけど、今回勉強して描きました。でもその周りにいる人間たちは自分自身や自分の周りにいる人をベースに描いていますし、僕は映画で人間の内面を描いていますから。
ボクシング経験者なので『BLUE/ブルー』は内面と“側”の2枚抜きみたいな映画になりましたが(笑)、経験していなくても、登場人物の気持ちは僕自身が持っているもの。そういう感覚です。

─ 自分の内面を絞り出すのは、精神的に辛くなりそうです
僕は世の中に対する違和感みたいなもの、例えば政治的な問題や人間同士の付き合いにおける違和感を、映画で描いていることが多いです。それは歴史とともに変わっていくものだと思う。少し前はマスコミやSNSなどの第三者の悪意に違和感を抱いていて、何本かそういう作品を撮りましたが、今回は「反省」がそれにあたるというか。「反省って何をしたら反省なんでしたっけ?」という。
『四月の余白』も同じテーマでしたが「痛みを乗り越えるってどういうことだっけ?」と。また本作だと「前を向く」「人生を前に進める」って口では言っているけど、前を向くというのは、ずっと前だけを向いているわけじゃなく、1回後ろを振り返り、自分と向き合って、2歩下がっても、また歩くっていうことなんだろうなとか、そういうことをテーマにしましたね。